本買うゆえに我あり

買っただけで満足して何が悪い‼︎

保坂展人『相模原事件とヘイトクライム』(岩波ブックレット)

事件からちょうど5カ月目を迎える今月26日に津久井やまゆり園の献花台は閉じられるそうだ。 事件後の報道にはやはり違和感があった。それは事件そのものだけでなく、施設では19歳から70歳までの人が集団生活しているということに誰も突っ込まなかったよう…

磯崎新『日本建築思想史』(太田出版)という本

磯崎新と聞いて、マーマレードボーイを思い浮かべる人がいた。なんでも登場人物の一人が建築家を志しており、磯崎新はその憧れなんだとか。 本書のタイトルは、『日本/建築/思想/史』である。こうしたタイトルを見ると、丸山眞男を思い浮かべずにはいら…

朴忠錫『韓国政治思想史』(法政大学出版局)という本

いま私の目の前に一冊の本がある。『[제2판]한국정치사상사』(『[第2版]韓国政治思想史』)。初版は1982年に刊行され、第2版は2010年に刊行された。来月刊行される本書はおそらく第2版の日本語訳だと思われる。内容に入る前に縦横無尽の参考文献を一目で…

亀山郁夫『チャイコフスキーがなぜか好き』(PHP新書)という本

数ある蔵書の中で、買わなくてもよかった本の一冊かもしれない。がしかし、そんなことはない。 中村紘子が亡くなった。彼女の『チャイコフスキーコンクール』の文庫版解説を本書の著者である亀山郁夫が担当している。それが本書を買う直接のきっかけとなっ…

横田弘『【増補新装版】障害者殺しの思想』(現代書館)という本

この事件を聞いたとき、本書がすぐに思い浮かんだ。今回の事件に引きつけて目次を見るならば、興味深い章や節が目につく。「障害者殺しの事実」、「殺されたほうが幸せか」、「本来あってはならない存在か」、「福祉従事者との話し合い」。 帯文にある森岡…

斎藤美奈子『学校が教えないほんとうの政治の話』(ちくまプリマー新書)という本

裏表紙には次のように書いてある。「政治参加への第一歩は、どっちがホームで、どっちがアウェイかを決めること。」 法哲学者カール・シュミットは『政治的なるものの概念』で、政治を敵と味方を区別することと定義する。いわゆる友敵理論だ。その意味で本…

アインシュタイン/フロイト『ひとはなぜ戦争をするのか』(講談社学術文庫)という本

いま話題の石田純一は昨年夏のデモに参加した際、「戦争は文化ではない」と言って人々の耳目をさらった。この発言はかつての自身の発言とされた「不倫は文化だ」のパロディであり、彼のユーモアを余すところなく存分に披露した。 しかし「戦争は文化ではな…

『文學界』7月号(文藝春秋)

今月号はスゴい!表紙をアレントが飾り、特集は「民主主義の教科書」に、評論に至っては、話題沸騰中の「韓国人は司馬遼太郎をどう読むか」、さらに「アラン・レネ試論」。それだけにとどまらず、エセーには荒木優太と、「ベケットの映画、ドゥルーズの映画…

佐々木毅『政治学講義 第2版』(東大出版会)という本

パラパラとめくって気になること一点。旧版の参考文献では丸山眞男の「科学としての政治学」が挙げられていたけれど、第2版では挙げられていない。それが本文にどう影響しているのか、読んでのお楽しみである。以上

姜尚中・玄武岩『大日本・満州帝国の遺産』(講談社学術文庫)という本

いまさらながら思うけれど、「大日本」というネーミングセンスはどうなのだろう。私が小学二年生のときに、世界で一番大きなクジラの名前は何かと問われて、「大クジラ」と答えたことを思いだす。それぐらい単純過ぎやしないか。 さて、本書は岸信介と朴正…

三野博司『カミュを読む』(大修館書店)という本

「世界は美しい」という背表紙に慰められる。しかし、表紙には残酷な言葉が続く、「世界は美しい。そしてこの外には救いはない」と。 私はつい最近まで『カミュなんて知らない』人間だった。いやカミュと言えば、アルベール・カミュではなく、セイン・カミ…

宮内洋・好井裕明編『〈当事者〉をめぐる社会学』(北大路書房)という本

私はどうやら勘違いしていたらしい。当事者主体、当事者主体と言う割には、当事者無視が甚だしい人々。一体これはどうしたわけか。 彼らのいうトウジシャは当事者ではなかった。統治者だったのだ。統治者主体を彼らはずっと言っていたのだ。日本語ってムズ…

カンタン・メイヤスー『有限性の後で』(人文書院)という本

訳者千葉雅也の師であり、フランス哲学から中国哲学まで手がける「ヤバさ」全開の中島隆博がその誕生を言祝いだのが本書である。 背表紙の帯には「事物それ自体の思考へ」とある。それは「事物それ自体を思考する可能性があるということの証明」らしい。カ…

M・ピカート『沈黙の世界』(みすず書房)という本

沈黙するとは、お口をチャックすること、つまり噤んでいることを言うのだろう。噤んでいるだけか? 噤むということは同時に耳をすますこと、思考することでもある。耳を傾けるその先には何があるのだろう。再び口が開かれるとき、それは思考を停止し、思考…

小森陽一編『夏目漱石、現代を語る』(角川新書)という本

ななななに!漱石が2016年を語るぅぅぅ⁉︎今年は漱石が熊本に来た年から数えて、120年目の節目の年である。 漱石の評論集である。もちろん「私の個人主義」も収められている。「私の個人主義」というからには、「あなたの個人主義」があってもいいのだろう。…

藤田尚志・宮野真生子編『性』 (ナカニシヤ出版)という本

『愛・性・家族の哲学』シリーズの第2巻。副題は「自分の身体ってなんだろう?」。確かに性別は身体を基準に決められてしまう。しかしである。身体を基準に性別を決めているのは、法ひいては政治ではないだろうか。性を、本性あるいは本質ぐらいの意味で使…

先崎彰容『違和感の正体』(新潮新書)という本

思考は違和感から始まる。世界は私と調和していない。いやそもそも私が私自身と調和していないから思考を始めるのかもしれない。 思考を始めるのだろうか、思考が始まるのだろうか。違和を感じるだけでは、思考するのに足りない。違和感に違和に感じること…

熊谷晋一郎✖️大澤真幸/上野千鶴子/鷲田清一/信田さよ子『ひとりで苦しまないための「痛みの哲学」』(青土社)の本

痛みはたびたび哲学で取り上げられる。痛みは極めて個人的なものであるにもかかわらず、人の痛みがわかる(ような気がする)のはなぜかという形で問われる。 しかし人知れず痛みを覚えることもあるだろう。私の下唇と舌にできた口内炎の痛みは決して人に伝わ…

吉永和加『〈他者〉の逆説』(ナカニシヤ出版)という本

帯文から、他者論を推し進めたら宗教に回帰するという逆説を妄想してみた。以下妄想。 他者とは、端的に言って、私にはよくわからないものということである。理解できるものは、自己に属すのであって他者ではない。しかしなぜわからないものがあるのか。 そ…

大塚英志『二階の住人とその時代』(星海社新書)という本

友人からの誕生日プレゼントで500頁もある本書をもらった。一体何を考えているのか。本の海を漂う私に本をプレゼントするとは、勇気ある友人だと思う。副題は「転形期サブカルチャー私史」、オタクである著者についての自伝だろうか。 二階とは、一戸建てと…

『うつくしいひと』という映画

映画『うつくしいひと』。小林秀雄をもじって言えば、「ひとのうつくしさがあるのではなく、うつくしいひとがいるのである。」 熊本を舞台に、熊本に縁のあるキャストで製作された「うつくしいひと」。これは現総理である安倍晋三が使っていた「美しい国」…

中島義道『不幸論』(PHP文庫)という本

幸福を求めて幸福になれるかどうかはわからない。しかし不幸を求めれば確実に手にできる。 不幸を求めて不幸になったら、ただの不幸だ。不幸を求めて幸福になったら、それは希望通りにならなかったということだ。やはり不幸だ。不幸を求めれば確実に不幸に…

藤田尚志・宮野真生子編『家族』 (ナカニシヤ出版)という本

『愛・性・家族の哲学』シリーズの第2巻をすっとばして、第3巻。 家族は一人ではできない。つまり二人以上で可能となるのが家族である。二人以上、すなわち他者の存在から始まるのが家族である。他者と共に在ることを考える上で、家族の考察は不可欠だろ…

『群像』2016年6月号(講談社)という雑誌

2年連続して、たまたま買った雑誌に掲載された作品が芥川賞を受賞した。その作品を目的に買ったわけではない。羽田圭介の「スクラップ・アンド・ビルド」が掲載された『文学界』(2015年3月号)を購入したのは、平野啓一郎と金杭(『帝国日本の閾』で丸山眞男…

佐々木隆治『カール・マルクス』(ちくま新書)という本

本書は人物名を書名としており、そこからして著者だけでなく編集者らの意気込みを感じとってしまう。ことちくま新書は、そうした新書が成功しているように思われる。たとえば重田園江の『ミシェル・フーコー』は、中山元『フーコー入門』とは違う、ゾクゾク…

佐藤雅美『知の巨人 荻生徂徠伝』(角川文庫)という本

本書を書店で見つけられなかった。角川文庫の棚にはなかった。どこにあったかというと、時代小説の棚だった。だから、時代小説を買ったのは初めてかもしれない。 さて本書はハードカバーのときから注目していた。参考文献には、丸山眞男の『日本政治思想史…

橘川俊忠『丸山真男「日本政治思想史研究」を読む(仮)』(日本評論社)という本

「すぐれた研究書はそれ自体ひとつの「世界」をかたちづくっています。あるいはそれ自身として一箇の「小宇宙」といってよいものです。古典ともなった研究書は、そこに盛られた知見そのものがたとえ古びていったとしても、なお生きのこります。テクストとし…

高桑和巳『アガンベンの名を借りて』(青弓社)という本

哲学者アガンベンの著書を訳してきた翻訳者によるアガンベン入門。アガンベンと言えば…………アッカンベー………………よく知らないから買ったのである。以上

藤田尚志・宮野真生子編『愛』 (ナカニシヤ出版)という本

『愛・性・家族の哲学』シリーズの第1巻。 philosophy(哲学)は「知を愛する」を語源とする。では逆に、「愛を知る」とは哲学の反対、反哲学なのだろうか。 愛を知ることもまたphilosophyの営みであるように思う。プラトンの『饗宴』、アレントの『アウグス…

油井大三郎『増補新装版 未完の占領改革: アメリカ知識人と捨てられた日本民主化構想』(東大出版会)という本

学者でも若いイケメンがもてはやされる。しかし私の推しメンは本書の著者である油井大三郎、71歳。三國連太郎激似で、ただただ渋いのだ!買う理由がこれで悪いか!以上